「雑誌媒体」で見る広告ビジネスモデル

 と言うことで昨日の続きです。

 昨日書いた結論は、つまり広告というモノの本質は「コストを『送り手』側が負担した情報流通」であり、広告屋が売る「価値物」とはそうした情報フローと、それによってもたらされる結果であって、広告物そのものではない、と言うことだったわけです。
 コレをさらに詳しく見るために、「雑誌広告」というモノをひとつのケースとして考えてみたいと思います。
 
 印刷原価を計算すればよくわかりますが、現在流通している雑誌のたぐいは、そのほとんどが原価以下の価格で流通しています。一応代金を取っている一般雑誌でも完全に原価割れですし、フリーペーパーに至っては「情報の受け手」である一般ユーザーが支払う対価は文字通りゼロです。
 ではなぜ、原価割れの価格や無料で流通している雑誌がビジネスとして成立するか。これらの雑誌の収益は実質的に、掲載される広告収入によって支えられているからです
 では、雑誌広告のビジネスモデルは実際にはどうなっているでしょうか。雑誌に掲載される「広告」には大きく分けて2種類あり、文字通り「広告」として掲載されているモノと、我々が「パブ」と呼ぶ「記事の形態をなした広告」とに分かれます。タウン情報誌などに見られる「美味しいお店紹介」などの記事は、実質的にはこの「パブ」もしくは「記事広(告)」と言うヤツだと考えていいでしょう(もちろん、編集サイドがきちんと取材を行っている場合もありますが)。「パブ」とか「記事広」まで話を広げるとわかりにくくなるので、ココでは文字通り「広告」として掲載されているモノ、それもそうした「広告」のみで雑誌が編集されている「情報誌」のたぐいを考えてみます。「ぱど」や「HotPepper」などのフリーペーパーや、就職情報誌などを想像してもらうとわかりやすいでしょう。
 
 フリーペーパーや就職情報誌の場合、その収入のほとんど(フリーペーパーの場合全額)は広告収入に依存しています。広告出稿料金は買い取るスペースにほぼ比例し、媒体の持ち主である出版元はこの料金収入によって雑誌を編集・印刷・流通させているわけです。また、出版元には編集機能に付随してクリエイティブ部門がくっついているため、原稿制作能力を持たない一般クライアントの原稿制作を肩代わりし、その対価として制作料金を取っています。
 もちろん、これらの雑誌の場合、出版元がクライアントに営業をかける事もあるのですが、ほとんどの場合中間に代理店が入って、出版元の営業を肩代わりする構造になっています。
 では、広告主から見た代理店の利便性とはどこにあるかというと、先に挙げた「原稿制作料金」の負担を軽減(場合によっては無料化)するところがまず挙げられます。再三述べているようにこうしたクリエイティブ職の場合、販売される価値物はクリエイターのアタマの中から生まれるモノですから、会計上の「原価」はゼロとなります(「原価」に相当するのは、クリエイターの人件費や機材の減価償却費、あるいは光熱費と言った「固定費」のみです)。良心的なクライアントならきちんとデザイン代を払ってくれますが、この世知辛いご時世にちゃんとデザイン費を出してくれるお客さんなんてほとんどいませんから、会計上「原価」が発生しないのをいいことに、この部分をサービスや格安でやってしまうことが、代理店がクライアントに提供できる「利便性」と言うことになります。
 もう一つ、クライアントから見た代理店の利便性は、出版元が基本的に自社が保有する媒体しか扱わないのに対して、代理店はほとんどの場合複数の媒体を仲介することが可能である点が挙げられるでしょう。例えば就職情報誌の場合、顧客の奪い合いを避けるために、一度広告を掲載したクライアントに関しては、一定期間(だいたい最終掲載から半年)他の代理店が介入しないと言う紳士協定が存在します。ただ、代理店にしてみればそれでは顧客開拓ができませんから、複数の媒体を持つことでこの「既得権」協定をかいくぐって顧客開拓をする、と言うのがほぼ常識となっているわけです。求人関係の広告やってるところだと、リクルート学生援護会などの有料雑誌媒体、アイデムをはじめとするフリーペーパーや折り込みチラシ、さらには「単チラ」と呼ばれる一社単独での求人チラシなどの複数の媒体を用意するのが普通です。求人広告やってる代理店にとって、最高の営業ツールはこれらの求人誌であり、それらに掲載されている会社に「まだ使っていない媒体」を売りに行くわけです。さらに、もうちょっと踏み込んで、これら複数の媒体を時には使い分け、時には同時進行させることによって、より効果の高い広告展開を提案できるというのも、代理店が中間に入る大きなメリットとなります(と言っても、なかなかそこまで気前よくお金出してくれるクライアントはいませんが)。
 ちなみに求人誌の場合、広告掲載料金は代理店が入ろうが出版元直取引だろうが一定と言う建前になっています。実際には若干の中間マージン(もしくは出版元からのキックバック)があるため、それを削って値引き販売する例もありますが。
 
 さて、雑誌広告というモノの構造はこのようになっているわけですが、コレを「広告という情報フロー」として考えた場合どうなるでしょうか。
 出版元=媒体の持ち主にとっては、媒体の「切り売り」によって収益が得られます。広告主は媒体に広告を掲載する対価として掲載料を支払い、自社が発信する情報を流通させる権利を買い取っているわけで、その発信情報によって目的(売上向上・求人・ブランド浸透など)を果たせます。広告の受け手である一般ユーザーは、広告主がコストを負担することによって、それらの情報(に加えて、出版元が「媒体の価値向上」のために独自制作した記事情報)を安いコストで入手することが可能です。広告代理店は、媒体の持ち主とクライアントの中間に入ることで、媒体側の労力のかなりの部分を肩代わりすると同時に、クライアントが発信する情報の価値をより高めたりして、この両者に対して利便性を提供しています。
 
 程度の差こそあれ、広告ビジネスというのはほぼ上記のような構造で成立していると見ていいかと思います。

 と言うことで、もうちょっと続けてみます(笑)